振り返るというのは、いささか気恥しい。かくかくしかじかの自分は、こんな感じで苦労し努力してきました。そんな自慢話になりがちだからである。
でも過去の自慢話ではなく、最近の自慢話ならちょっとしてみたい。たとえば、これは最近といえるかどうかわからないが、昨年開催された私の個展「空想美術館/絵画になった私」の会場となった京都国立近代美術館に、ある京都の高校の全学生徒が、展覧会を観に来たことがあった。総勢千人を越える学生が一気に美術館に押し寄せた。
会場で話をしていて、わかったことがある。どうも学生たちはみんな、今回の展覧会の作品のすべてが新作であると思い込んでいたらしい。一番昔の作品は、なんと13年も前の1985年作であると聞いて、みんなキョトンとしていた。
13年前というと、その時来ていた学生さんたちはまだおしめをあてていたかもしれない。そんな昔からこつこつ作り続けてやっと、おおきな展覧会がひとつできるわけだ。「GRAY」や「宇多田ヒカル」が、いきなり新作をひっさげてホールを満杯にするありさまを普通のこととしてとらえるみんなには、13年もの長い月日のことなど考えられないのも当然である。
だが私はかえって自慢できると思った。なぜなら、13年前のものも含めて、すべてが新作であるかのような気分を与えるのであるとすれば、まだ私の作品のすべては、懐かしの過去ではなく、今もなお有効に作用し続けているということの証明だからである。
もうひとつ、こちらは自慢話になるかどうかはわからない。これから取り組むことなので、もしかしたらいつか自慢話になる可能性もあるかもしれない、そんなお話である。
なにかというと、今度お芝居に出演することになったというご報告である。野田秀樹さんの新作で、演出は蜷川幸男さん。会期は今年の11月16日から12月23日で、場所は渋谷の東急文化村「シアター・コクーン」。大竹しのぶさんや勝村政信さんら、ベテランの役者さんにまじり、晩秋から冬にかけて、私も役者の端くれである。
私の役どころはピンカートン夫人で、そう多くはないがセリフもそれなりにある。初めて蜷川さんにお会いしたとき、「モリムラさんの肩書きって、いつもはどうしてるの」とお聞きになるので、「いつもは美術家ですが、今回は女優家かなと思ってます」と答えた。
画家とか小説家とか冒険家とか、いろいろ「家」のつく職業が多い。大竹しのぶさんは、はじめっから正真正銘の「女優そのもの」だが、私は「女優になる」のがお仕事なので、「女優家」がぴったりだと思った次第である。
ついでにもうひとつ。「女優家」業とともに、じつは今私は「社長」業もやっている。なんのかというと「森村泰昌百貨店」である。阪急さんや高島屋さんに対抗意識を燃やしているわけではない。「森村泰昌百貨店」とは、百貨店形式でモリムラテイストの情報を提供しようという、ホームページのこと
(http://www.morimura-ya.com/)。
そんなわけで「お芝居見に来てね」。これは「女優家」の私からのお願い。そして「百貨店に遊びに来てね」。これは「社長」としての私からのお願いである。いろいろな経験をして、新たな「美術作品」制作への肥やしにしたいと思っている。
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